第2語 ただ透明な、なめるだけのアイクリーム

街を歩いていると色々な人の声が耳に入ってくる。私はそれを聴くのが好きだ。

 

タイトルの言葉は家の近所の子供が家族と話していたときの発言。
正確には「ただ透明な・・・なめるだけのアイスクリーム」。
一呼吸考えてから、「なめるだけのアイスクリーム」と言った。彼は言葉を選んだ。

 

すぐに離れてしまったから私は会話のその部分しか聴いていない。
そのため前後関係はわからないが、なんだか奇妙なことを言っている。

 

透明だけど、なめることはできる。そして、なめることだけしかできない。
このアイスクリームは味がしないのかもしれない。
もしかしたら、なめることはできても食べることはできないのかもしれない。

 

実に不思議なアイスクリームだ。果たしてそれはアイスクリームと言えるのだろうか?
たしかになめて冷たさを感じるのであればそれはアイスクリームと呼んでも問題ない気がする。
しかしアイスクリームをなめたとき私たちは同時に必ずバニラの香りと、口に広がる甘い味わいを感じる。

 

もしこれが「透明なアイスクリーム」であったとすれば「透明人間」と同様に想像することができる。アイスクリームがただ見えないだけだ。
けれど「味がせず食べることもできないアイスクリーム」はイメージがしにくい。
なので「透明人間」という類似の存在を手がかりに考えると、もしかしたら「透明で味がせず食べることもできないアイスクリーム」はアイスクリームの幽霊のような存在かもしれないと思う。

 

アイスクリームの幽霊。
夏にコンビニで買ったアイスクリームが暑さで溶けて、道路に落ちてしまった状況をイメージする。
それはとてもかなしい。
せっかく選んだのに。もっと早く食べればよかったな。

 

私たちはコーンだけになってしまったアイスクリームを惜しんで、心のなかでだけ弔うようになめることができる。あるいは文字通りなにもない空間をなめることができる。きっとそれはとても悔しげな様子だろう。
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少年はどうしてこんなことを言ったんだろう?